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 訃報の便りが届いたのは早朝だった。まだ陽も昇らぬうちに携帯電話が着信し、寝ぼけ眼を擦りながら嗄れた声で応答すると、田舎の母がひどく慌てながら『大おじいちゃん、ダメだったぁ……』と支離滅裂に曾祖父の逝去を告げた。もとよりかなりの高齢であったので身内のものは覚悟をしていたようなのだが、やはり言葉では達観していても、いざそのときがくれば慌てふためくのが条理だ。  果樹園の手入れをする曾祖父の顔はいつも陽に焼けて真っ黒だった。子供の時分は果樹園に駆けて行くと、黒い顔で『継海(つぐみ)、ナシ食うか、モモ食うか』と、夏の陽射しを一身に浴びた生ぬるい果実を両手に掴んでニカッと笑っていた。     
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