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これで任務は完了。帰り支度をしなくてはいけない。ほかに何か伝えることを忘れていないだろうかと考えを巡らせていると、
「そうだ。さくらちゃん、こっち来て」
あさぎくんをソファに下ろした佐倉さんが、台所に向かいながら手招きをする。誘われるままついていくと、そこには大きなナイロン袋が置いてあった。両手で取り出し、佐倉さんはとっても嬉しそうに満面の笑顔で中身を見せてくれる。
「先輩からの差し入れ、あんこう鍋セットです」
それは通販で人気の鍋セット。包丁いらず、中身をお鍋に入れるだけの手軽さで簡単に美味しいお鍋ができる優れものだ。
見た瞬間に分かった。きっと先輩さんは佐倉さんを引き止め、今日の夕飯までご馳走したくて、用意していたのではないだろうか、と。
お迎えに来てしまうくらい佐倉さんをかわいがっているだけに、一人で食事をすることになってしまった佐倉さんのことを、とても気に掛けているのかもしれない。
それをお土産にしてもらい予定通り帰宅するあたり、佐倉さんも結構頑固なところがある。やっぱり私では頼りなく思われ、家のことが心配だったのだろうか。言ってくれたら延長して夜まで待っていたのに・・・。
「・・・美味しそうですね」
ちょっと気落ちしながらの感想に、思いがけない言葉が返る。
「でしょう?すぐに用意しようか。あ、まだお腹空いてない?」
「え?」
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