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「・・・ティッシュ、使い切っちゃいました」
最後の一枚で、涙と口元のソースを拭いながら、ちょっとおどけるように笑ってみせると、佐倉さんも微笑んだ。
「買い置きがあるから、まだまだ使って大丈夫だよ」
私が泣き出した理由なんて、佐倉さんにはお見通しだっただろう。ようやく泣き止んで落ち着いた頃には、佐倉さんはたこ焼き3パックを完食していた。
新しいティッシュをもらってケースに入れ替えている間に、紅茶もいれてくれた。
「いい匂い・・・」
カップからは、フルーティーな甘い香りが漂ってくる。
「オレンジティー。今一番のお気に入りなんだ。ティーバッグだけどね」
元々コーヒー党だったという佐倉さんは、紅茶好きだった奥さんの影響でよく飲むようになったらしい。
「奏さんは茶葉から選んでくれてたけど、僕はどうもうまくいれられなくてね。ティーバッグの方が手軽で充分おいしいし、種類もいろいろあるから。あ、気に入ってくれたなら、ほかにもオススメがあるから、持って帰って飲んでみて」
「ありがとうございます」
「これもどうぞ」
佐倉さんが目の前に大きなプリンを置いてくれた。スーパーでよく見かける3個パックのプリンを全部足しても足りないような、ビッグサイズのプリンだ。
「僕はさくらちゃんの持ってきてくれたパンをいただくから」
袋をガサゴソ鳴らして、佐倉さんが嬉しそうに新作パンを並べ始める。
「ちょっと待ってね。中身をあててみるから」
大量のたこ焼を完食した直後だというのに、本当においしそうに食べる。
・・・この人にはかなわないなあ、と心底思った。
どんな慰めの言葉より、自然体で接してくれる佐倉さんに癒されている。
もう遠慮するのも馬鹿らしくて、またひとつ大きく鼻をすすると、スプーンを握った。
きっと佐倉さんのおやつだったろうプリンは、卵たっぷりのやさしい味が舌にとろりと広がった。
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