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 約束はお昼12時。5分前に佐倉さんのマンションに到着した。 「こんにちわ」 「いらっしゃい。寒かったでしょう。さ、入って入って」  笑顔で迎えてくれた佐倉さんの足元には、当然もえぎさんとあさぎくんもいる。玄関に勢揃いだ。 「えっと、明日まで一緒にお留守番しますので、よろしくお願いします」  まずは挨拶が肝心と、小さな家主達に語りかける。  耳が動いて、私の声にちゃんと反応してくれているのが分かる。 「さくらちゃん、身軽だね」  背中にはいつものリュックのみ、ほかに荷物はない。 「はい。パジャマとか着替えくらいですから」  佐倉さんは、今日は先輩のお家にお泊り。明日の夕方まで帰って来ない。  その間の猫のお世話とお留守番というのが、佐倉さんからのお願いだった。  今年の春にいつもお世話になっている会社の先輩が家を建て、一度ゆっくり遊びに来いとずーっと誘われていたのに、ずーっと断ることしかできなかったのだそうだ。  理由は勿論、もえぎさんとあさぎくん。  まず、もえぎさんは人見知りが激しくて、留守を頼める人がいない。結婚祝いにもらったロボット掃除機も駄目で、一週間戦った末に撃退してしまった経歴があるというから筋金入りだ。  見慣れない人がいることは、ストレスになってしまう。  それならばと、二匹でのお留守番に踏み切り、昨年一泊二日の社員旅行に出掛けたところ、もえぎさんは平気だったけれど、今度は置いてきぼりにされたあさぎくんが拗ねまくってしまったらしい。  玄関近くまでは一応お迎えに来てくれたけれど、なんと抱っこも拒否。撫でてもおやつをあげても、いつものように喉を鳴らすこともない塩対応。ご機嫌がなおるまでに、何時間もかかったという。  佐倉さん、愛されてる――なんていうのは簡単だけれど、安心してお泊りもできないのはちょっと大変かもしれない。 「ほんとにありがとう。引き受けてくれて、助かったよ」  何故かもえぎさんに人見知りされなかったことで、佐倉さんのお役に立てる。感謝されて嬉しい反面、すべてもえぎさんのおかげのような気もしている。 「さくらちゃん、お昼は?」 「あ、食べてきました」 「じゃあ、お茶いれるね。何がいい?」 「佐倉さん、お茶なら自分でいれますから。気にせず出掛ける用意してください」 「もう用意はできてるから大丈夫。まずは座って座って。何かリクエストある?」 「それじゃあ・・・オレンジティーを」 「了解」
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