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電話を切ると、佐倉さんはソファの上に置いてあったバッグと、お土産らしき紙袋を手にした。紙袋の方が大きいなんて、佐倉さんも随分と身軽だ。
「ごめん、さくらちゃん。先輩が迎えに来たから行くね。あとはお願いします」
「はい」
玄関まで見送りに行くと、もれなくもえぎさんとあさぎくんもついてくる。
「佐倉さん、鍵は私が閉めますから」
「ありがとう。慌ただしくてほんとごめんね。明日は帰る前に連絡入れます」
「はい。いってらっしゃい」
佐倉さんは一瞬動きを止めると、私の方にきちんと向き直って、いつものはにかむような笑顔を見せた。
「いってきます」
施錠をしっかり指差し確認して、居間に戻る。これから一晩、私がこの家を預かるのだと思うとちょっと緊張する。佐倉さんがいなくなった部屋は、佐倉さんがいた時よりも広く感じられた。
ひとまず落ち着こうと、オレンジティーの入ったカップを手にソファに腰を下ろした。
次の瞬間、待ってましたとばかりに、後ろをついてきていたあさぎくんが膝の上に飛び乗ってくる。びっくりして、紅茶がこぼれそうに波打った。
あさぎくんは自分の気に入るポジションを探してくるくる動いていたが、太ももにお腹を密着させるように、べたーっと寝てしまった。はっきり言って、あさぎくんの方が大きいのではみ出している。でも、くっついてさえいられれば気にならないらしい。ジーンズを通して、すぐにあったかい体温が伝わってくる。
もえぎさんもすぐに隣にやって来た。私に寄りかかるように体を伸ばすとあくびをする。どうやらお昼寝の時間のようだ。
佐倉さんがいなくなっても寛いでくれていることには安心したが、困ってもいる。これではしばらく動けない。
紅茶を飲みながら、それでもなんとも言えない幸せな気分になる。
佐倉さんも、いつもこんな風に幸せで困った時間を過ごしているのかもしれない。
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