5/26
前へ
/141ページ
次へ
 佐倉さんと連絡先を交換してからのこの一週間、毎日毎日もえぎさんとあさぎくんについての質問をした。  留守番を引き受けるにあたり、家の中のことはともかく、猫のお世話の仕方を知らなくて不安でいっぱいだったからだ。  散歩もいらないし、新鮮なごはんとお水を用意して、あとはトイレ掃除さえすれば大丈夫。などと簡単に言ってくれたのは、猫好きの中学からの友人だ。私が初めて猫タワーを見たのは、彼女・椎名(しいな)の家だ。  ごはんとおやつのストックの場所、トイレ掃除の方法、お気に入りのおもちゃなどについては先週聞いて帰ったが、初心者にはそれだけでは全然情報が足りないと思った。  何せ佐倉さんの大事な家族を預かるのだ。  ネットの情報や椎名の体験談より、やっぱり佐倉さんの生の声を一番に聞きたかった。  佐倉さんは、私の質問にとても丁寧に答えてくれた。いつの間にか、話は奥さんの奏さんとの出会いにまで及んだ。  奏さんは上司の娘さんで、上司の方が佐倉さんの食べっぷりを気に入ってくれたことから紹介されたらしい。  興味がないと最初は不機嫌そうだった奏さんが、用意された大量の焼肉を綺麗に平らげていく佐倉さんの見事な食べっぷりを見て、  ――お父さんの思惑にのってあげてもいいわ。ただし条件付きだけど。  と、にっこり笑って出した条件が、もえぎさんとの面談だったという。  奏さんは実家近くのマンションで暮らしていて、美味しい紅茶をご馳走するからと、その日のうちに佐倉さんを連れて行った。  佐倉さんを見ても、もえぎさんが逃げなかったことで、とりあえず合格。お付き合いが決まった。ただ、紅茶を飲む佐倉さんをじい・・・っと少し離れた場所から、もえぎさんはずっと見つめ続けていたらしい。  佐倉さんがもえぎさんに対して敬語だったり、年長者を敬うように接するのはそういうところからもきているのかもしれない。  ちなみに奏さんは「もえ」「あしゃ」と呼んでいたそうで、かわいいのにどうしてそう呼ばないのか佐倉さんに質問してみたところ、すぐに僕には無理ですという答えが返ってきた。  曰く、一番が奏さん、次がもえぎさんとあさぎくん、最後が佐倉さんというのが家でのヒエラルキー構造だったからとのこと。  でもそれは、誰より佐倉さんがやさしいからだろうと思った。  奏さんが佐倉さんを気に入ったのも、きっと食べっぷりだけじゃなかった筈だから。
/141ページ

最初のコメントを投稿しよう!

120人が本棚に入れています
本棚に追加