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 一通り猫談議で盛り上がったあとで、椎名が本題とばかりに切り出してきた。  佐倉さんの写真はないの?、と。  ない、と送った途端に電話がかかってきた。 「そこは撮っておいてよ!分かるでしょ?」 「何、いきなり。分かんないって」 「いい?相川、失恋を忘れるには新しい恋、新しい出会いなのよ」  どうも椎名は私と佐倉さんの間に、ロマンスの神様の降臨を期待しているらしい。 「ご期待に添えなくて悪いけど、それはないから」 「なんでそう言い切れるのよ」 「佐倉さんは奏さんを、・・・亡くなった奥さんを今でも大切に想ってるから」  だから佐倉さんは、もえぎさんとあさぎくんと過ごす日々を、大切に大切に生きている。 「このお留守番が終わったら、お店で顔を合わせる店員と常連様になるだけ。新作パンのお知らせや感想を言い合ったり、もえぎさんとあさぎくんの写真を送ってもらったり、そんな風に繋がっていられたら嬉しいと思う」 「私は、佐倉さんはそうは思ってないと思う」  佐倉さんに会ったこともない椎名が、何故か確信めいたことを言い出す。 「相川から話を聞いてずっと思ってた。やさしいからってできることじゃない。他人に留守番をまかせるなんて、まずあり得ない」  自分でも感じていた疑問をぶつけられ、言い返せなくなる。  私のことを「相川さん」でも「さくら」でもなく、「相川」と呼ぶ女子は椎名だけだ。だから私も名字で椎名と呼ぶ。中学で同じクラスになった時からそうだった。  巻き髪やかわいいネイルがよく似合う女の子らしい外見の椎名は、中身はさっぱりとしていて、そのギャップもいいのか昔から本当によくもてた。恋愛に疎い私よりは場数も踏んでいる。  その椎名の言葉でも、佐倉さんと私が・・・恋?  なんだか違和感しかしない。
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