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それは佐倉さんが嫌だという意味じゃない。佐倉さんをそういう対象として見ることに抵抗があるのだ。
ここは聖域のような場所。佐倉さんともえぎさんとあさぎくんが穏やかに暮らすこのあたたかな部屋にいると、まるで縁側の日だまりで微睡む猫になったみたいな気分になる。
自分から余計な感情を持ち込んだりしたくない。
黙り込んでしまっていると、椎名の溜息が聞こえた。
「何もすぐに乗り換えろって言ってる訳じゃない。まだ拓人くんを忘れられないことも分かってる」
「・・・うん」
椎名が心配してくれていることも分かっている。
「ただ、相川が動かなくても、変わる気はする。もし佐倉さんから何かしらのアプローチがあったら、その時は甘えてみなさいよって話」
「これ以上甘えたら罰が当たりそう」
「『あの時、拓人にそばにいてって甘えてたら、こんなことにはならなかったのかな』、私に言った言葉、覚えてる?」
「覚えてる、けど・・・それとこれとは」
「違わない。同じだから」
椎名が私の言葉を先取りして強めの口調で諭す。
「相川、せっかく繋がった縁を、自分から手放さないで。なかったことにはしないで。もう後悔してほしくない。泣いてたって、すぐに慰めにも行けないんだから」
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