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母に今の暮らしを知られるリスクを回避するため、私は地元に帰ることができない。いや、帰りたくない。
だから椎名以外には知らせていない。
離婚こそしていないけれど、椎名の両親の仲も随分前から破綻している。世間体のためだけに家族でいる。お互いいろいろあるよねと、椎名は笑ってくれる。
――ま、よくある話なんだけど、腹が立つから、私は結婚するまでは親のすねをかじりまくってやるの!
椎名のそういう突き抜けた所も私は大好きだった。
「うん。分かった。ありがと。椎名と話すと元気出る」
「そう?せっかくもえぎさんの審査に合格してるんだから、ちょっとは頑張ってみなさい」
最後にまた一押しされて通話が切れた。
頑張れと言われても・・・、私はもうっとスマホを指で弾くとソファに深く沈みこんだ。
実際、佐倉さんに異性として見られている気はしない。新たに猫が一匹迷い込んできた程度のものだろう。いつも体調や食事の事を気に掛けてくれるのは、もしかしたら少し痩せたことを心配してくれているのかもしれない。毎日きちんと食事はしているのに、昨日久しぶりに体重を測ってみたら2キロ落ちていた。
――夕食はおでん確定。
ちゃんと食べてることをアピールしないと、佐倉さんに余計な心配をかけてしまう。
ただ、紅茶を飲んだカップを洗いに行った時にちらっと覗いてみたら、お鍋の中には想像以上に大量のおでんが詰まっていた。佐倉さんには適量でも、あれは夕食だけで消化しきれる量じゃない。ということで、明日のお昼もおでんに決定。佐倉さんの作った美味しいご飯を続けて食べられるのは、かなり幸せかもしれない。
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