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もえぎさんの顔を覗き込むようそっと横になると、小さな寝息が聞こえてくる。
暖房が効いているから寒くはないけれど、床暖房のあるリビングの方がより暖かい筈。私には分からないけれど、ここは佐倉さんの匂いがして、一番安心できるのかもれない。あさぎくんもそう。平気そうにずっとご機嫌でいてくれたけれど、やっぱり佐倉さんが恋しいのだろう。私がやって来たことに気付くこともなく、頬を寄せ合い幸せそうに眠っている。
さわりたくなる気持ちを耐え、寝顔を見守っていると、その向こうにある写真立てが目に入った。サイドテーブルに乗った、この家に一枚だけ飾ってあった奏さんの写真。佐倉さんと並んで写る、新婚旅行の時の笑顔の写真。寝室に案内された際、ついガン見してしまったため佐倉さんが教えてくれた。
奏さんは、知的な雰囲気の女性だった。癖のない黒髪を肩で切り揃え、スレンダーで、白いシャツがよく似合っていて。猫と紅茶とだんな様を愛した、とても綺麗で素敵な人。
クローゼットを片付けている時に気付いたけれど、衣装ケースの引き出しには「夏・Tシャツ」「冬・セーター」など、奏さんのものらしい文字で書かれた小さな猫の付箋が貼ってあった。洗濯物をたためない佐倉さんに代わって、整理整頓をしていた名残だ。
実は引き出しの中には3枚だけ、クリーニングに出した形跡のあるセーターが入っていた。とても肌触りのよさそうなあのセーター達は、奏さんからのプレゼント、のような気がした。だから佐倉さんは型崩れさせないよう、クリーニングに出し、きちんと引き出しにしまって、特別に丁寧に扱っている。
ただ、クローゼットには奏さんの洋服はなかった。コートもスカートも一枚たりとも。思い出すことが辛くて、たとえば押入れの中に片付けてしまったのだろうか。だとしたらこれから洋服を取り出す時、佐倉さんは奏さんの文字をどんな思いで見つめるのだろう。
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