120人が本棚に入れています
本棚に追加
遠くであさぎくんが鳴いている声が聞こえる。
この声には聞き覚えがある。「お帰りー」のにゃーだ。佐倉さんに「お留守番してたよー」「かまってー」「抱っこー」と猛アピールしている。
ああ、佐倉さんが帰って来て良かったね。私も少しは役に立ったのかな。意識が浮上しはじめるのと同時に、名前を呼ばれた。
「・・・さくら、ちゃん?」
佐倉さんのやさしい声。その響きが懐かしく、なんだか私まで嬉しくなって、シーツに頬を摺り寄せ、猫のように丸くなる。
「こんなところで寝てると・・・風邪をひくよ」
長い指がそっと触れる。顔にかかっていた邪魔な髪を、やさしくかきあげてくれる。
「佐倉さん・・・?お帰りなさい」
夢見心地に呟くと、佐倉さんが嬉しそうに微笑んだ。
「はい。ただいま帰りました」
佐倉さんの笑顔と、抱っこされご満悦なあさぎくんが見える。もえぎさんは・・・と考えたところで、覚醒した。バッと飛び起きても手遅れで、私は佐倉さんのベッドの上でしっかりうたた寝していた。ばかりか、それを発見されてしまうという、とてつもなく恥かしい状態に陥っていた。
「あ、えっと、これは・・・その」
どんどん火照る顔でしどろもどろになっていると、
「うん。もえぎさんに付き合ってくれてたんだね。状況は分かるから、落ち着いて」
最初のコメントを投稿しよう!