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「早くお嫁さんもらってね、一緒にショッピングとかカフェに行ってみたいのよ。あんたもお父さんも、ちっとも付き合ってくれないんだもの」
なんて言っていたが、母は良江に会う前にこの世を去ってしまった。
「あなたが結婚して独り立ちしたら、二人で喫茶店をやろうって決めてたんですって。でも、その前にお義母さんは亡くなってしまって……。その約束を守るために、お義父さんはあのお店を始めたのよ」
「そんな話、初めて聞いたな」
「私が聞いたのも、お義父さんが亡くなる前、あなたに「ノワール」を継いでほしいって言った後だったわ。ずっと悩んでいたみたい」
「悩んでいたって?」
「店を始めてから、自分はお義母さんの趣味も好みも全く知らなくって、店はお義父さんの趣味ばっかりになってしまったでしょ? 約束を守るための場所なのに、余計に一人ぼっちなんだって気付いちゃうんですって。もう少しあいつのショッピングとやらに付き合ってやればよかったなぁって言ってたわ」
奇しくも今日、私も同じようなことを思った。
良江は何が好きなんだろう、と。
さすが親子、ダメなところが似てしまった。母もあの世で悲しんでいるかもしれないな、なんて思う。
「だからね、その……お願いされたのよ、できたら、私たちの約束を継いでほしい。二人で店をやってくれないかって」
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