あなたを受け入れる夜になる

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「二人で? でも、そんなこと親父も君も言わなかったじゃないか」 「それは……私も仕事があったし、すぐには無理だったの。それに、怖かったのよ」 「怖いって、何が」 「あなたは自分ってものがないくせに、人を受け入れないんだもの。お店もコーヒーもカップも全部お義父さんのときのまま。私が何を言ったって、ちっとも変わろうとしないし変えようとしない。あの店は今でもお義父さんの店よ、あなたのじゃない」  他人の服を着ているような違和感、しっくりきていない――沙苗の言葉を思い出す。 「お義父さんの「ノワール」はいろんな人を受け入れてくれる場所だった。だから好きだった。あなたがあの場所を継いだら、あなたも変わってくれるかなって少し期待してた。でも、どんなに待っても、あなたはどんどん暗闇に紛れていくみたいに見えなくなっていく。それが怖かったの」  そして、その結果が今、私たちの間にある。良江のほうだけ記入された離婚届は、半分だけ真っ白だ。 「そうか」  私は呟いた。そしてもう一度、そうか、と小さく呟く。漂ってくるカレーの香りは、こんな状況でも私の食欲をそそってくる。そう言えば、カレーは良江の得意料理で、私の好物だ。 「なあ、良江」     
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