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良江がわずかに顔を上げる。今日、コーヒーを飲んだときにも浮かんだこの表情。
それは愛する者の帰りを信じる、寂しさと希望が入り混じった、待つ者の表情だ。
私は何も待ってなんかいなかった。
待っていたのは、良江だ。
「もう少しだけ、待ってくれないか。今度は、私のコーヒーを飲んでほしい」
良江はぽかんとしたあとに、嬉しそうに笑った。目尻にわずかに涙がにじんでいる。
「でもね」
と、良江は少し申し訳なさそうに言った。
「私、コーヒーより紅茶のほうが好きなのよ」
私たちはしばらく見つめ合った。そして盛大に笑った。
私は今、少なくとも父よりはいい夫になったのだ。
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