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「慰謝料四百五十円、ですっけ。ちょっとカッコいいなって思っちゃいました」
くすりと笑みをこぼす姿は、いつものオルゴール人形とは違う、ひどく人間味を帯びた姿だった。
「でも、どうしてですか? 仲が悪かったとか?」
「どうしてだろうね」
聞きたいのはこっちの方だ、と胸の内で呟く。
「奥さんもコーヒー苦手なんですか?」
「え?」
「残してたから」
「いや、そんなことは……」
ない、と口にしかけて、止まる。そう言えば、良江は何が好きなんだろう。
「マスターもコーヒー、あんまり好きじゃないですよね。なのに、どうして喫茶店やってるんですか?」
「この店は、親父から引き継いだんだ」
「あー、だからか! なんかチグハグな感じがするなぁって思ってたんですよね」
「え?」
「マスターって、コーヒーもそうだけど、この店が好きな感じもしなかったから。たぶんマスターに合ってないんですよ、この店」
沙苗の言葉に、頭を強く殴られたような衝撃を覚えた。
「合ってないって……沙苗ちゃん、それはどういう意味かな」
「うーん、他人の服を着てるみたいな違和感っていうか、しっくりきてないんですよね、なんか」
大きな目でくるくると視線をさまよわせながら、沙苗は言った。
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