割れ鏡

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割れ鏡

 一人暮らしの友達の家を訪ねたら、部屋に置かれている鏡にひびが入っていることに気がついた。  亀裂は右上の端の方に入っていて、使用にとりたてて不自由はなさそうだけれど、私は昔から祖母に『割れた鏡は縁起が悪い物』と言われてきたので、鏡のひびがたまらなく気になった。  買い換えないのか聞いてみても、これで問題はないと言うばかりで、買い換える気はさらさらなさそうだ。  人の家のことだしと思ったけれど、友達が、縁起の良くない品を使っていることがどうしても気になってしまい、私は独断で買った鏡を、次に彼女の部屋を訪ねた際にプレゼントした。 「ちょっ…気持ちは嬉しいけど、ウチはこれ、ホントに無理だから」  鞄から出そうとした品を、遠慮とは本気で違う顔を見せた友達が、決して出させないという勢いで拒んでくる。その態度に少し意固地になり、無理に鏡を鞄から取り出した瞬間、部屋の中にガラスが割れるような音か響き渡った。  室内のあちこちから聞こえる音が、どんどん私達の側に寄って来る。そして私の鞄の上で一際大きく鳴り響き、それと同時に、取り出しかけた鏡に何か得体のしれないものが映った。 「しまって!」  友達の手が、鞄の中へ鏡を押し込めるそれと同時に奇怪な物音は鳴りやんだ。 「今のって…」 「説明はできないけど、ともかく、ウチに置いておくのはあの割れた鏡だけでいいの。それは持って帰って」  はいとしか返事かできず、私は追い出されるように友達の家を後にした。  あれからも友達とは普通に交流があるけれど、この話題には一切触れていない。  あと、外では普通に会っているけれど、家に遊びにおいでよとは二度と言われなくなった。  自業自得だけど、やっぱりちょっとそれは淋しいな。 割れ鏡…完
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