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玉座の間の重い門を人間が開くのはおよそ300年ぶりのことであった。
玉座に座る魔王はその姿を四つの目で捉えニヤリと笑う。
先頭に立つのは赤い髪、金色の瞳を持つ青年、腰に聖剣を携えた『勇者』だった。
「待ちわびたぞ、勇者よ」
二本の角、四つの目、四つの腕を持つ『魔王』が玉座から立ち上がる。その威圧感に勇者とその仲間たちはこれまでにない緊張に襲われた。
しかし湧き上がる恐怖を振り払い、勇者は聖剣を抜き魔王に向ける。
「悪しき魔王よ、僕達がお前を打ち倒し世界に平和を取り戻す」
「僕達……だと?」
その言葉に魔王は嘲笑するように鼻を鳴らした。
「ふん、我と渡り合えるのは貴様くらいのものであろう。後ろの者たちからはまるで力を感じぬわ」
勇者の仲間である魔法使いが何か言おうとしたがそれを勇者が手で制する。
「僕の仲間を侮辱することは、許さない」
そう言いながらも、確かに魔王と互角に戦えるのは勇者だけであると仲間たちも、勇者自身も直感していた。
「事実を言ったまでよ。……時に勇者よ」
「なんだ」
魔王は勇者を見つめる。
もちろん勇者に対して魔王が最も強く思うのは敵意である。しかし同時に魔王は勇者に近しいものを感じていた。
魔王として君臨し300年間、魔族ですら自分と対等に戦えるものなどいなかった。
今魔王は、初めて対等な敵に出会ったのだ。
そしてこの瞬間が勇者と言葉を交わす最後の時。
「貴様は何故戦う、勇者よ」
我ながら下らない質問だと思った。
「仲間と、世界のためだ」
そして下らない答えが帰ってきたと、魔王は笑った。
「くく、そうか。では話は終わりだな」
「ああ、もう言葉は必要ない」
「ゆくぞ!勇者よ!」
「こい!魔王!」
魔王は怒号と共に異次元より現れた巨大な二本の剣をそれぞれ左右の手に掴む。
そして目にも止まらぬスピードで勇者に向かい突進した。
振り下ろされるひと振りの大剣。
勇者は辛うじてそれを聖剣で防ぐ。
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