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「菊、襖を開けてくれないかな」
菊は輝吉の言葉に従わなかった。
「『力』を使いたくない」
「……どうせ私は非力で、あなたが力ずくで襖を開けることは容易いですよっ」
「そうだね。『力』は使いたくないから『力ずく』で襖を開けることにしよう」
『力』と『力ずく』、その言葉の違いに『違い』があるのか、菊は一瞬考えた。
バタンと音を立てて襖が開く。
「っ……」
その一瞬の隙を狙って輝吉は襖を開けることに成功した。
だか、そのときに菊は襖の溝に爪を掛けていたため、爪が割れてしまった。
手を引っ込める菊の手を、輝吉は見逃さず掬い上げた。
「綺麗な爪に傷をつけて、悪かった」
……なんて綺麗な人なんだろう、輝吉を見て菊はそう思った。
その輝吉は爪に口付けをすると、不思議と痛みが消え失せた。
「パートナーの血の香りも清楚だ。……あの時の血の味と同じだ」
「え?」
「桜の迎えとは口実でね、菊に会いに来たんだ。俺の清楚な一輪の花に」
なんとクサい台詞だろうと菊は思ったが、輝吉を見たらそんなことはどうでもよくなってしまった。
そのくらい輝吉は絵になっていた。
菊の心臓は高鳴って、どうしようもなかった。
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