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「おば様、菊にお花を摘んできたの。……お会いしても良いかしら」
菊の母親の親友の娘、式場 桜は菊の寝ている離の前に来ていた。
桜は東京のやはり華族式場家に嫁いだ親友の娘で神代家には疎開していた。
「桜ちゃん、ありがとう。……菊のお部屋に飾りましょうね」
その花は摘んできたとは思えないくらいの、見事な白い薔薇だった。
薔薇を一輪挿しに生けて菊の枕元に置いた。
「菊、早く元気になって。戦争が終わったら東京に遊びに来て」
「……うん」
菊は桜が好きだった。
淡い恋心を抱いていた。
けれど菊のその恋は実らない、菊本人が確信していた。
身体の弱い自分とお転婆な桜では釣り合わないから。
それでも、菊は桜が好きだった。
「戦争に行ったお兄様が帰ってきたら、菊に自慢したいの。勿論菊も私の自慢の友達と紹介したい。だから良くなって、菊」
桜は笑顔で菊の顔を覗き込んだ。
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