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待つという行為は時間の浪費であり、積極的にする行為ではないだろう。しかしそれでも待つのはそれ以上の見返りを得られるからで、かくして僕は必然的にその日も金髪の女子高生を待っていたのだった。
『昨日未明に殺害されたAさんを含め、今回の女子高生連続殺人は8人にものぼり警察は今後もーーー』ブツっという音とともにラジオの音が途切れ、聞き慣れたスローテンポの洋楽がカフェの中に流れ始めた。
まばらな客足の中、僕は定位置の古びたチェアからアンティーク調の壁掛け時計をみやる。夕方、午後17時30分過ぎ。僕は手元に置いてあった『我が輩は猫である』を開いた。左手でポケットの中のものの感触を楽しみながら時間を潰す。
突然入り口のドアが爆発したかのような勢いで開かれる。入店を告げるベルがまるで神社の鈴のようにけたたましくなった。
カウンターに居た老人の男店主が小さく呟く。
「いらっしゃいませ」
透き通るようなブロンドのロングヘア、その小顔には大き過ぎる丸眼鏡。仕事のできる秘書のように眼鏡の位置を直しながら彼女は告げた。
「ブラック一つ」
それだけを告げるとその娘はローファーをかつかつと鳴らしながら僕の右斜め前のソファー席に座った。
彼女はそこにしか座らない。だから僕も斜め向かいのこの席にしか座らない。
白いセーラー服に紺色のスカート、僕が待ちわびていた金髪の女子高生のお出ましだ。
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