第1章『待つ』

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 もう一ヶ月前にもなるだろうか、彼女をこのカフェで見かけたのは。いや、その美貌に見蕩れたのは。  断っておくが恋などではない。芸術的に整ったその外見に目が離せなかった、とでもいえばいいのだろうか。それから毎日このカフェに通い、彼女がやってくる時間を調べ、その時間帯に合わせてここで毎日本を読むフリをしている。  言いたいことは分かる、どう考えても気持ちの悪いストーカーの一歩手前か一歩先だろう。  しかし僕はここで彼女がブラックコーヒーを飲み終えるまでの時間、彼女を眺めているだけだ。そう、話したこともなければ話しかけようとも思わないし、彼女のことも何一つ知らない。  恐らく彼女は今からスマートフォンを取り出し、なにかしらの時間を潰しながらブラックコーヒーを飲み干す。  その短い時間をただ堪能することをどうか許してほしい。
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