1人が本棚に入れています
本棚に追加
と、その時だった。彼女はソファー席に座ったまま、僕の正面のソファー席の位置までお尻をずらしながら移動してきた。
「我が輩は猫である。面白い話ですよね」
「………」
一旦、整理しよう。僕と彼女は面識がない。いや毎日カフェで見かけているから顔を知っている程度の間柄ではあるのだが。
「確か我が輩がなんなのかを探すために旅に出て、猫カフェのボスに成り上がるために多くの猫と死闘を繰り広げる。そんな話でしたよね」
彼女は猫のように大きい瞳でまばたき一つせず、そんなことを言ってきた。まぁ、入店の仕方や所作を見る限り、少し不思議な娘であることは分かっていた。せっかく彼女と話が出来るのならば、談義に興を添えよう。
「明治時代から猫カフェがあったとは驚きだね」
「……じゃあ、どんなお話なんですか?」
僕は言葉に詰まった。正直彼女ばかり眺めていたので5分の1も読んでない。まぁ、適当でいいか。
「我が輩はなぜ猫として産まれてきたのか、そういった答えのないものを追求するお話さ」
よし、それっぽい解答が出来たのではないだろうか。
「違いますよ」
……は?
「『我が輩は猫である』にストーリー性はありません。乱暴にまとめると、我が輩口調の猫が人間の滑稽さを語るユーモアあふれる小説、といった所でしょうか」
彼女はこの作品を知らなかったのではないのか? ……いや、ちょっと待て。これはまずい。
最初のコメントを投稿しよう!