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「1ヶ月も読んでいた小説のあらすじも知らないなんて、よっぽど私に魅入ってたんですね。いや、見蕩れてたのかな」
嫌な汗が背筋を伝う。と同時におどけた喋り口調に苛立ちが募る。
ダメだ、落ち着け、悪い癖だ。
1ヶ月もの間、毎日彼女をこのカフェで待ち伏せしていたあげく、カモフラージュとして買った小説を読んでいないことまで見抜かれている。
いや、バレている。
こうなった以上、正直に謝罪するしかあるまい。犯罪者予備軍と言われても致し方ないことは了承するが、犯罪者ではないはずだ。可愛い女の子を眺めていただけで何もしていない。
「その……、気分を害されたのなら謝罪する」
僕の居心地悪げな佇まいを悟ったのか、彼女は微笑んだ。
「いや、そんなに早く認めてくれるとは。
ってことは最近この辺りで起こっている女子高生連続殺人の犯人があなただってことも認めてくれますよね?」
……は? なんだって?
「いやいや、それはおかしいだろ! 一体何を言ってるんだ君は!?」
僕の言動に彼女は眉根を寄せる。
「違いますよ。そこは『証拠は?』って余裕しゃくしゃくに聞くところです。そのちょっと焦った普通の感じの言い方だとあなたが正常な人みたいじゃないですか」
訳が分からない。イライラする、頭が回らない。
なぜ僕が犯人の前提で話が進んでいるんだ。
彼女の言う通り、素直に『証拠は?』と聞くのが一番身の潔白を証明できるかのように思えた。思えたが、嫌な予感がする。
いや、他の解答が見当たらない。沈黙が長引くだけ不利だ。
仕方なく僕は呟いた。
「……証拠は?」
苦虫をかみつぶしたような、という表情をしたのだろう、僕は。
彼女は満面の笑みで答えた。
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