序奏 荒ぶれる空の光

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 リンティの魔法で助けられたのに、養姉はリンティを毛嫌いし続けた。人間は恩知らず、とリンティが言うのも無理はなかった。  と言っても、気ままで奔放な妖精のリンティが、ライム達が収穫した果物を勝手に食べ尽くしたり、特に甘い物には目が無く、養姉が山を下りてまで買ってきたお菓子を盗み食いしたりなど、嫌われて当然の理由もあった。  最終的には、リンティが起こした山火事でライム達のボロ家は焼けてしまった。リンティは違う! と怒っていたし、焼ける家から養姉を助けてもくれたのだが、あの炎自体はリンティの魔法の余波だったとライムは感じている。  新しい家を建てられるオカネを稼げ。そう言って養姉はライムを旅に出した。けれど本当のところは、後でリンティが教えてくれた。 ――あたし達、狙われてるよ、ライム。一緒にいるとスーリィが危ない。  炎はライムを狙った「力」だった。その炎をリンティが散らした結果、山と家が燃えてしまったのだ。オカネなんて知るか、もう帰るもんか、とライムは養姉に言い放った。それはライムをこき使い続けた相手へ、その場の反感でしかなかったが、叫んだライムに、笑った養姉の顔を見て気付いてしまった。  養姉は、その日が来ることを知っていたと。  ライムといれば、いつか誰かに狙われること。それでも二人で街に住めば、ライムの足手まといになり得ること。それほどライムの青い髪は、世にも稀な化け物であること。  育ての親、スーリィ・シュアは類稀な剣士であるが、ただの人間だった。山奥の湖で偶然拾ったライムのことを、最大限に鍛えて育ててくれた。  養姉のことを思い出すと、じわりと胸が熱くなってしまう。岩場でぐっと息を呑み込んだライムに、突然イールが声をかけた。 「リンティって、誰? 貴女達、まだ仲間がいるの?」  ここのところ、ライムをつけ回していたイールは、ライムを狙う何者かの一人だろう。それなのにイールも、そんなことを尋ねる。 「……私とずっと、一緒にいた妖精。今はいないけど……」  誰もその妖精を知らない。武丸や佐助は、家が焼かれる前にライムと出会い、ライムといたリンティと何度も喋っているのに覚えていない。  養姉と離れて人里に出されたライムを、しばらくリンティは追いかけてきた。イールはいつからライムを見つけたかは知らないが、ライムに付き纏ったリンティを、イールも誰だ、と言う。まだリンティがいなくなって、半月も経っていないのに。
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