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妖精とは、悪戯好きで性質の悪い妖、と養姉に聞いた。だからこんな、ライムしかリンティを憶えていない、おかしな状況になってしまったのだろうか。
わざわざリンティのことを尋ねてきたイールに、一応確認を返す。
「仲間だったら、どうする気? そもそもあんたは、私を殺す気? 武丸や佐助、それにリンティも?」
ぎょ、っと武丸が、隣に座る佐助をかばいながら後ずさった。
ライムがなんだかんだ、誰かに狙われていること、武丸や佐助にもたまに刺客がやってくること。一応実戦慣れはしているが、こんなに狭い空間で追手が目の前にいることはそうそうない。
「ライムさん!? こいつ敵なのかよ!?」
そう言えばまだ、昨夜に襲われかけた旨を説明していなかった。人間のマリエラがいる前では、イールは昨日のような行動に出ないだろう、と思って気が抜けていた。
イールのように、ヒト型をする化け物の多くは、人間の前では「力」を隠すことが多い。「妖精」のリンティも、人間の街では尖り耳や大きな白い翼を隠していた。
夜の間は山を下りて疲れたので、朝は休んで、昼になれば街へ、とマリエラには言った。しかしイールは始終黙っており、何が目的か、何故追跡者だとばれてもここにいるのかよくわからない。ライムはこれまで人間の集団だけでなく、謎の炎や山の主たる怪木に襲われたことがあるが、いずれもどうしてライムを狙うのかは本当のところがわかっていない。
そしてイールが昨夜見せた「力」は、何と呼んだものだろうか。祠や泉を青白く凍らせ、ライムにも向けられた「封印」であるらしき「力」。
「あんた、私を殺そうとはしてるよね。祠や泉は『封印』で済ませたのに」
今もイールは、殺気を収めてはいない。生け贄を求める祠を封印したことを思うと、何か理由があってライムの前にいるのだろう。どちらかというと高潔そうな顔付きであるから、すぐにはライムを殺しに来ない。
だからライムは、改めてイールにがっかりしていた。
「殺す気ならさっさと殺しなさいよ。殺さないなら、帰ってくれない?」
イールはまだ、ライムを殺すことを諦めていない。けれどその目的は、人間がここにいる程度のことで揺らぐ薄っぺらさ。
それなら潔く諦めてほしい。命を狙われる覚えはライムにはなく、イールに何の恨みもないので、わざわざ戦いたくない。これまで剣を向けて来た人間や化け物達とも、ライムから戦いたいと思ったことは一度もない。
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