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ライムはただ、突然いなくなったリンティを探し、あてなき旅を続けたいだけ。いつかどこかで、無理にオカネを稼がなくても、平穏に暮らしていける地があるかもしれない。
岩場が作った隙間の両角、睨み合っているライムとイールに、武丸と佐助、マリエラもハラハラしている。ライムはつくづく、勘弁して、と頭を垂れた。
「……理由くらい、教えてくれる? 何であんた達、私を狙うの?」
「……『達』?」
きょとん、としてみせるイールにいらっとした。白を切っているのがわかる。理由はわからないのだが、ライムにはイールが嘘つきに見える。
昔からライムには、ヒトの性格が何となくわかるところがあった。妖精のリンティに懐かれたのも、普段は陽気なリンティが本当は悩みだらけで、何で必死に笑ってんの? ときいたのが最初だった。
「イール。あんた、私の家を焼いた炎と同じくらい強い。そんな気配はほとんど見たことない。それに、私の雷を受けられる奴、多分あんたで三人目なの」
ライムが簡素でも鎧を着るのは、怪我をすれば人間と同じように、機動性が落ちるからだ。そう簡単には死なない頑丈さなのだが、怪我をすぐ治せる化け物ではない。
しかしイールは、昨夜確かに当たった雷のダメージをすぐに消してしまった。
「あんなに早く持ち直せるの、あんたや似たような力の奴らだけ。どう似てるかは言えないけど、似てるのは確かだから」
化け物にも様々な力の持ち主がいる。妖精が使うような「魔法」は、それはそれで稀少で強力らしいが、「魔道」という世界に流れる「力」を流用する化け物は多い。
イール達の「力」は違う。「魔道」のように、力を使う時に周囲の空間が歪んだり、術者の気配が慌ただしく気色を変えたりしない。とりあえずそれは、「自然」としか言いようがなかった。まるで呼吸でもするかのように、大きな「力」を放ってくるのだ。
何かに不本意そうなイールが、食ってかかる声色と共に目端を歪めた。
「三人……それだけしか、生き残らなかった? 貴女と戦ったヒトは」
人聞きの悪い。そう思ったが、咄嗟に応えなかった。これまでライムは養姉を除き、人の息の根を止めたことはない。養姉もリンティが助けてくれたので死んでいない。
けれど今、噛みつくような声になったイールには本性がかいま見えた。何を言い出すか待ってみると、やがて数瞬後のことだった。
「やっぱり……〝魔竜〟」
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