序奏 荒ぶれる空の光

11/14
前へ
/80ページ
次へ
 ライムはただ、突然いなくなったリンティを探し、あてなき旅を続けたいだけ。いつかどこかで、無理にオカネを稼がなくても、平穏に暮らしていける地があるかもしれない。  岩場が作った隙間の両角、睨み合っているライムとイールに、武丸と佐助、マリエラもハラハラしている。ライムはつくづく、勘弁して、と(こうべ)を垂れた。 「……理由くらい、教えてくれる? 何であんた達、私を狙うの?」 「……『達』?」  きょとん、としてみせるイールにいらっとした。白を切っているのがわかる。理由はわからないのだが、ライムにはイールが嘘つきに見える。  昔からライムには、ヒトの性格が何となくわかるところがあった。妖精のリンティに懐かれたのも、普段は陽気なリンティが本当は悩みだらけで、何で必死に笑ってんの? ときいたのが最初だった。 「イール。あんた、私の家を焼いた炎と同じくらい強い。そんな気配はほとんど見たことない。それに、私の雷を受けられる奴、多分あんたで三人目なの」  ライムが簡素でも鎧を着るのは、怪我をすれば人間と同じように、機動性が落ちるからだ。そう簡単には死なない頑丈さなのだが、怪我をすぐ治せる化け物ではない。  しかしイールは、昨夜確かに当たった雷のダメージをすぐに消してしまった。 「あんなに早く持ち直せるの、あんたや似たような力の奴らだけ。どう似てるかは言えないけど、似てるのは確かだから」  化け物にも様々な力の持ち主がいる。妖精が使うような「魔法」は、それはそれで稀少で強力らしいが、「魔道」という世界に流れる「力」を流用する化け物は多い。  イール達の「力」は違う。「魔道」のように、力を使う時に周囲の空間が歪んだり、術者の気配が慌ただしく気色を変えたりしない。とりあえずそれは、「自然」としか言いようがなかった。まるで呼吸でもするかのように、大きな「力」を放ってくるのだ。  何かに不本意そうなイールが、食ってかかる声色と共に目端を歪めた。 「三人……それだけしか、生き残らなかった? 貴女と戦ったヒトは」  人聞きの悪い。そう思ったが、咄嗟に応えなかった。これまでライムは養姉を除き、人の息の根を止めたことはない。養姉もリンティが助けてくれたので死んでいない。  けれど今、噛みつくような声になったイールには本性がかいま見えた。何を言い出すか待ってみると、やがて数瞬後のことだった。 「やっぱり……〝魔竜〟」
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加