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呟いたと同時に、イールが大きく跳んだ。岩の隙間から上に降り立ち、ライム達を下に残して駆け去っていった。
「えええ!? 魔竜、って言った!? あいつ!」
追おうか悩んだのだが、武丸が派手に驚いていることの方が気になってしまった。イールは多分、ライムが「襲ってきた者のほとんどを雷で殺した」と勘違いしているが、追いかけて誤解をとくほどでもない。事情を教えてくれそうにないので、武丸から騒ぐ理由を訊き出す方が早そうだった。
「それ、何? 聞き違いでなければ、『竜』って聴こえたんだけど?」
武丸はこれまで、佐助と共にライムの追っかけ弟子をしようとする理由を明かさなかった。それでも何度か、ライムに対して「竜」の単語は口にし、ライムさんは竜だと思う、とぽつりとこぼしたことがある。
マリエラと佐助が、理由は違えど当惑した顔でこちらを見ていた。武丸が焦り、腕にかけて持ち歩く小さな守り袋を握りしめてライムを見つめた。
「……よくは知らない。何の話か思い当たれば、改めてどっかで言う。とりあえず早く、あの人送りに行こう、ライムさん」
ライムより若い黒の瞳には、幼い佐助と育った里を出てきた重い覚悟がときに見え隠れする。戦争に出されるのが嫌だから、と初対面の時には言っていたが、実際その後にライムも強い兵士の欲しい国に見初められ、おふれで追われる身になっていたため、今では気持ちがよくわかった。
ライムも武丸も、まだ推定十五歳や十三程度の世間知らずだ。養姉は、人間の中では類稀な達人剣士で、いくつも戦火をくぐったというが、人間はどうしてそうも戦争が好きなのだろう、とライムにはずっとわからなかった。
「それにしても……送るってーも、マリエラには行くあてはあるの?」
あの村では生け贄は古くからの風習らしく、娘を持った親は誰もが恐々と育てるという。
というわけで、マリエラの両親はオカネの用意だけでなく、逃げた娘の行き先まであらかじめ考えてあったことがわかった。
「あの……私、『ディレス』に親戚が……できればそこに行きたくて……」
黙ったままで、ライムと武丸の顔色が苦く変わった。
「ディレス」。その国こそライムに賞金をかけ、武丸も関わりたくない、と逃げて来た理由の一端。
文明が発達しているので強い剣を買いに行ったものの、近々海の向こうの島国「ヤマト」と開戦すると噂の、人間ばかりの地域大国だった。
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