序奏 荒ぶれる空の光

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「あんた……何したの、それ?」 「悪夜(あや)を封じた。そろそろ封印が解けかけてるから、アタシはここに来たから」  へえ? とライムは、一瞬で白く変貌した祠を、遠目でまじまじと見た。娘は確かにそのために来たようで、簡単に終えてしまったものの、たった今その場に(あらわ)れた「力」は、先程の雷にも匹敵する気配の強さだった。 「貴女は、悪夜を解放に来たのかと思った。だから後をつけた。こんな山里に、他の何の用があって来たの?」  ライムを最近、追いかけていた娘。今の言葉は、嘘ではないが、本当でもない。そう感じられた。 「……目的を言えば、見逃してくれんの?」  口にしながら、組んでいた腕を下げた。娘との間合いは、ちょうど一足一刀。  武丸を先に帰らせたのは、娘から消えない殺気を感じていたから。腰に下げていた剣の柄を掴んだ瞬間、娘が同時に大きく振りかぶった。綿っぽい玉、としか見えない「力」の塊が至近距離で投げつけられた。 「――!?」  祠や泉を凍らせた「力」だ。抜き放った剣で咄嗟に斬り上げると、二つに分かれた「力」がライムの後ろの木にぶつかり、それぞれ当たった箇所が泉と同じように白くなった。  正々堂々の奇襲を斬られ、娘が右側の眉を跳ね上げた。バカじゃない、とライムは思う。つい先ほどに、ライムの前で泉や祠に使ったものと同じ「力」だ。既に晒した手の内で奇襲になると思っていたのだろうか。 「先手必勝っていうのは――」  冷静でいられたので、鉄の剣に自身の力を纏える余裕まであった。でなければ娘から投げられた「力」も斬れなかった。 「――こうやんの」  娘の視線が掲げた右手の剣にあったので、あえて空いた左手で空を切った。砂をまくように振り上げた手刀から光が走った。距離を縮めていた娘は全く避けられずに直撃をくらい、感電した体が飛び上がった瞬間、片刃の剣を峰側で振り放った。弾き飛ばされた娘は泉の前に落ちると、倒れて動かなくなった。  随分、手荒くなってしまった。けれどこうでもしなければ、意識を奪うこと一つできそうにない相手だった。実戦経験は乏しそうだが、「力」と丈夫さが油断できない。  この近さで得意の雷をお見舞いしたのに、娘の体にはほとんど熱傷がない。そうなりそう、と思ったからこそ、剣での打撃をトドメにした。ライムさんはいつも判断が早過ぎる! と武丸が常々不平を言うが、殺意の察知を含め、ライムの物事への見切りが速いのはその通りだった。
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