序奏 荒ぶれる空の光

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 ライムが育った場所だけで言えば、山が多いこの世界には、農耕や家畜を生活の糧とする人間と、土地そのものの「気」を力の源にするヒト型の化け物が対立して暮らしている。化け物達は純血や雑種と呼ばれ、人間より少ないがとても強い「力」を持っていると育ての親に聴いた。 「その中でもこいつ、飛び抜けてるな……」  すっかり意識を失った娘を、よっ、と肩に担ぐ。初対面なのに命を狙ってきた相手を、野放しにするほどライムは愚かではない。と言って、ここで見ず知らずの娘を始末する気にもなれない。  ライムが相手でなかったのなら、相当の強者のはずの娘。人間の村を困らせる祠をあっさり封じてみせたのだから、性根が悪い者とも思えない。ライムのおふれを見たなら生け捕りにしようとするはずで、まっすぐ殺しに来たこともよくわからない。  とりあえず目的と素性を訊いて、黙らせるか。ざっくりそう決め、宿の裏手まで帰ったライムだった。  そろそろ、丑の刻とも言える宵闇。村で唯一の宿の裏林で、予想通り武丸が困っていた。 「あー、ライムさーん……! この人どーすんだよ、帰れないです、ってずっとこんな感じ!」  目を覚ましたらしい生け贄の乙女が、座り込んで泣きじゃくっていた。  それはそうだろう、とライムは思う。宿に連れ込まなかった武丸も賢明だ。宿の主人に見られたら生け贄の無事を村に知られ、ライム達が儀式をぶち壊したと勘違いされてしまう。 「佐助は? 武丸」 「呼んだら来るだろうけど、これってやっぱり、そっち系事態?」 「当たり前でしょ。宿に金は払ってあるし、佐助もそろそろ回復してるでしょ」  はああ、と項垂れながら、武丸が懐から小さな草笛を取り出した。久しぶりに布団で寝れると思ったのに、とぼやきながら、一息に吹く。 「また夜逃げかー……あーあー……」 「文句あんなら、ついてこなきゃいい」 「ライムさん冷たい……いつになったらおれ達のこと、弟子って認めてくれんの?」 「それ言ってるの、あんただけだし。佐助はずっと嫌がってるし」  相変わらず嘆息しつつ、武丸もわかっているとは見えた。こんな、生け贄の乙女と謎の追跡者の娘を連れて、三人でも狭い宿の部屋に帰れるわけがない。  武丸と佐助、三人で旅をするようになって二カ月がたつが、彼らはライムの「判断の早さ」についてこられる程度には子供らしくなかった。ライムはまだ、推定十五歳と言われる程度の子供であるのに。
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