序奏 荒ぶれる空の光

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 ライムが追跡者の娘を背負い、武丸が生け贄の乙女を連れて、眠い、とぐずる佐助を追い立て、一行は山を下りる方向に逃げた。朝日が昇る頃に何とか、身を隠せそうな岩場を谷川の近くに見つけた。 「佐助、体は大丈夫か?」  竹筒を取り出し、ほら、と水分を取らせる兄の前で、むしろ佐助は笑顔になりつつあった。大きな岩々に囲まれた死角の隠れ屋が、彼らの育った(しのび)の里を思い出させるらしい。  明るい所に出ると、武丸と佐助の珍しい「和装」は目立つ。出会った時から二人はライムに「忍者」だと言い、漢字の名を持つ彼らは、育った里を黙って出てきたので、刺客に追われている、と言った。実際その後、何度か同じような和装の忍者にライム達は襲われている。  つまりは誰もが、追われている身。ライムの場合は人里に出た時、軍隊と呼ばれる人間の集団に喧嘩を売られ、勝ってしまったからおふれを出された。武丸と佐助は、戦争に行きたくない、という理由で里を出て来た。まだ十歳という佐助はしょっちゅう熱を出して、明らかに旅をするには早い子供なのに。 「んで、ライムさん……こいつらどーすんの?」  びくっ、と生け贄の乙女が岩場の端で身を竦ませる。山の下り方もわからない、と必死についてきた乙女だが、崖を駆け降り乙女を抱えて谷間を飛び越える化け物達について、誰もが乙女より幼かろうが、怖がっているのは無理もない。  途中で追跡者の娘も目を覚ましていた。人間の乙女を連れるライム達に、今は攻撃しない、と言うので、ライムはその言葉を信じた。そんな簡単に信じていいの!? と武丸が驚いたのも無理はない。  ライムの肩から解放された娘は、確かに殺意は薄れていたが、ライム達を放っておく気もないようだった。乙女を連れて山を下りるライム達について、この岩場まで同伴してきた。  少し離れて立っている娘は、朝の光の中で見ると、肩までの蒼い髪と青い眼の持ち主だった。ライムと良い勝負の人間ならぬ容姿だ。 「ガキんちょのくせに、『こいつ』は失礼ね、アンタ」  歳はライムより少し上に見える。それでも十代後半といった小柄な体付きで、目付きが鋭いわりには声色が幼い。人間の乙女に警告を発した時のような、ドスをきかせた声は別だが。  怯え続けている人間の乙女と、警戒心と殺気を併せ持つ娘。本当、だるい、とライムも岩場で膝を抱えた。
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