序奏 荒ぶれる空の光

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 もう何度も味わってきた。ライムは何もしていないのに、そこにいるだけで災いをライム達のせいにされた。  あの青い髪が魔物を呼んだ。(あか)い髪の妖精なんて凶兆だなんだ、と、襲ってきた人間の蛮族を退けてすら、ライム達がその後に糾弾された。 「リンティも言ってた。人間ほど恩知らずな生き物はいないって」  ぴく、っとイールが眼を見開いた。え? とライムは俯いていた顔を上げる。  しかし武丸のつっこみが同時に入り、出かけた声を呑み込むしかなかった。 「え、ライムさん。それ、何の話?」 「…………」  もう二カ月、正確にはそれより前から、ライムの生活を知っているはずの武丸が首を傾げる。そこに特に嘘はないことを、短い付き合いでもわかる。  佐助も武丸と同じ深緑の髪をかきながら、無邪気に不思議そうにする。ライムが「リンティ」という名前を出すと、二人はいつもこうなってしまう。  何か言いたげなイールの視線は感じていたが、マリエラを村に帰す選択肢もないので、もう話すことはない、とライムは再び俯いた。  確かについ先日まで、一緒にいた相手のことであるのに。武丸や佐助は「リンティ」を覚えていない。彼らのことも何度も魔法で助け、現在の世界の情勢を教えた妖精のことを。  風の大陸の西端で育ち、育ての母……というと怒る養姉(やしないあね)に剣を鍛えられ、人知れず山奥で生きてきたライムには初めての友達がリンティだった。長く紅い髪をポニーテルに、大きな白い翼を背にする少女は「妖精」だと名乗った。妖精なんてろくな奴がいない、と養姉はリンティを毛嫌いしていたが、ライムが己の「力」で誤って養姉を殺しかけた時も、助けてくれたのはリンティなのだ。 ――怒ると雷が出る。ライムのその体質は治せないから、ヒトを殺したくなければ怒らないようにね?  言われなくても、所構わず落ちる雷が自分のせいであるのは、小さな頃から気が付いていた。だから養姉も一人、山奥でライムを隠して育てた。  養姉は、ライムを小馬鹿にしながら酷使してきて、忍耐力をつけんとしてきた。畑仕事も猛獣狩りも、厳しい剣の修行も毎日の水汲みも。おかげでライムは、ちょっとやそっとのことでは動じなくなった。  それでもうっかり、養姉に雷を落としてしまったことがあった。初めて友達ができた、と話した時に、養姉はダメだと言った。胸を刺すような衝動のあと、気付けば雷が落ちてしまった。そこから養姉を助けたものは、その友達の魔法だったが。
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