横断歩道

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 何でかっていうとさ。  横断歩道を渡った先の道路工事をしていたオッサンがさ、仕事の手を止めて、その女の子の所へ一目散に駆けていったのを見たからでさ。  それで何をするかと思いきや、なんと俺や反対車線の赤い車に向かって一々頭を下げながらね。  女の子の側に立って、女の子を守るように一緒に歩き始めたんだよ、そのオッサン。  女の子は足を引きずるようにして歩きながら、そのオッサンに笑顔で何度も頭を下げてたなぁ。  どうやら見た感じ、知り合いでもなさそうでさ。  道半分くらいの所で、車道側の信号はとっくに青になってたんだけどね。  なんかそのオッサンの姿見てたら、すげーあったかい気持ちになってさ。  女の子とこっち見ながらゴメンって手でポーズしながら歩いてるオッサンが無事に渡りきるまで、2人のことを見守ってる自分がいたんだよ。  それでオッサンはまた、横断歩道を渡り終えたら颯爽と工事現場に戻っていってさ。  その後ろ姿がなんかカッコいいなぁって。  俺もこんなオッサンになりたいなぁって思いながら、車を発進させたんだよ。  だからさ、横断歩道の人間模様って深いと思うんだよなぁ……。  なに?そのいかつい顔でそんなほっこりする話をするなって?たまには良いだろ?  そんな仕事の愚痴や彼女の話ばかりしてないでさ。    寒い日は、熱燗飲みながらおでんつまんで、こんな話も聞いておくもんなんだって。  おまえが普段見れない俺が見ている世界の話をね。 ーーおしまいーー
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