「待つ」彼女

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 僕は待合室の女の人を見た。あの人は「運命」を待っているのではないか。太宰治の小説から抜け出てきたような「運命」の人なのかもしれない。今ここにこうして僕とあの人がいることは「運命」なのか。  目に見えないつながりを感じ、自然と息が苦しくなった。電車の時間は刻々とせまってきている。  女の人は再びちらっと窓の外へ目を向けると、突如、横に置いてあるスーパーの袋を持ち、すっと立ちあがり待合室を出ていった。そのまま駅をあとにしてスタスタと歩いていく。  僕はただその人を目で追っていた。女の人は駅の向かいにあるパン屋へはいっていった。小さなパン屋だが看板商品のパン・ド・ミが評判の店。  あの人は待っていた。パン・ド・ミが焼きあがり店に並べられる時を……。
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