「待つ」彼女

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「待つ」彼女

 駅の改札口横の待合室で女の人がひとり座って「待っていた」。  ラフな服装だが学生には見えない。斜めにわけたストレートのミディアムボブを時々手でかきあげる。肌寒い季節用の軽いコートの前を開け大人っぽく着流している。  休日の午前の早い時間、駅には人が少なく時間もいつもよりゆったりしている。休日に街へ出かける時、僕はいつもこのくらいの時間に家を出る。電車もすいているし、店が次々に開店していき街が目覚めていく様子を感じるのが好きだ。  電車の時間までまだ間があったので僕は待合室にはいった。待合室にはその女の人しかいない。僕はその人とはす向かいの椅子に腰をおろした。  女の人の横の椅子には食材がはいっていると思われるスーパーの袋が置いてある。買い物の帰りだろうか。でもなぜ駅の待合室にいるのか。まさか電車に乗ってまで食材を買いにきたわけでもないだろう。  時々顔をあげて改札口や窓の外に目を向けている。やはり何かを待っているようだ。誰かと待ち合わせだろうか。  僕はふと太宰治の短編小説「待つ」を思い出した。     
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