一話 帝都の敵

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 男も。  大阪も。  そして毒島も。  やるせない表情で、娘を、ただ、見ていた。  娘が落ち着くのを待って。  男は腫れ物にでも触るように、おそるおそる、震える声で、言葉を紡ぐ。 「……やはり私にはわからない……  之宣くんは、確かになくなったはずだ……?  私は……なにか間違っていたのか……」  もはやこの世のすべてが信じられない、とでも言うように、男はうつろな瞳。  彼の世界が崩壊しかけているのだ。  無理もない。  これは、直視するには、あまりにも不可解な現実だった。 「なんのことはない」  毒島は言う。 「彼女は、あなたの娘などではないのですよ」
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