一話 帝都の敵

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 小説であったかもしれないし、芝居でもあったかもしれないし、怪談であったかもしれない。  元がなんであれ、今の帝都には、怪人の存在は根付いていた。  そのほとんどが見間違いや思い込み、あるいは怪人の話題で金儲けをしたい新聞社などの陰謀であったが……それでも、そのうちのわずかなケースは、実際に、怪人と呼ばれる存在が関わっていた。  いや、怪人、というようりは、コトワリだ。  この世界と酷似した、だけれど微妙に異なる平行世界から意識のみでやってきた、理を断つ存在ーーすなわち断理は、こちらの世界の自分に憑依すると、ものすごい力を得、変貌する。  その姿が市井の人々のいう、怪人だった。  怪人=コトワリは、みな同じ格好をしている。  シルクハットにタキシード。  赤黒リバーシブルのマントを羽織り、不気味な顔の描かれた白い仮面を被っている。  通常は余計なものは何もつかず『怪人』とだけ呼ばれるが、先日の赤マントは、とある殺人現場付近で赤いマントを羽織った怪人のような恰好をした人物が目撃されたことから、赤マントと名づけられ。  その後、コトワリがこちらの世界にやってき怪人化し、事件を起こし、それを目撃されたことで、その怪人が赤マントに違いない、と言うことになったのだ。  つまり、怪人赤マントなど、はなから存在していなかった。  たんなる思い込みから赤マントは生まれ、その思い込みが重なり、赤マントは実体化したのだ。
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