一話 帝都の敵

25/94
前へ
/377ページ
次へ
 設定では四十過ぎ、ということだったが、十歳以上は若く見える。 「本日休業、と札がかかっていたでしょう?  今日は、無理なんですよ」  夜剣のいうとおり、今日……というか、今夜、大事な用事があった。  だから、今日は、探偵業はやらず、一日事務仕事の予定だった。  だが、そんなことはご婦人には関係ないらしい。 「んまぁ!  わたくしのジローちゃんがどうなってもいいっておっしゃるざーあすか!?」 「いやいや、そんなことは言ってないでしょう……」  困り顔でぽりぽり頭をかき、助けを求めるようにこちらを見る。  そんな目で見られても困る。  所長の夜剣に扱えない相手を、毒島の中の人に扱えるわけがなかった。 「ふぅ、やれやれだ。  しつこいババアだぜ。  たく、なんでババアってのはああも自分勝手なのかね?」  椅子にふんぞり返り、机の上に両足を投げ出し、悪態をつく夜剣。  ルックスはすこぶるよかったし、人当たりもまぁ悪くはないが、その本性は、自分勝手で傲岸不遜なおっさんだった。
/377ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加