一話 帝都の敵

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「う、嘘だ!」 「本当よ。彼の子、間違いなく。  でもね、彼は、私とのことは本気じゃあなかったから。  捨てられちゃったの。  彼のお友達にも、私、精一杯ご奉仕したのに。  彼に嫌われたくなくって、それで、いっぱいいっぱい、がんばって、みんなに、ご奉仕したのに……それなのに……」  顔をそむけた娘の頬を、つっ、と、一筋の涙が伝う。 「だ、誰なんだ、お、お前をもてあそんだ彼というのは」  震える声で、男は聞いた。 「之宣(ゆきのぶ)さん」 「え……?」  思いもよらぬ名前を聞いた。  とでも言いたげな顔だった。 「之宣……くん、だと?」 「ええ」  娘はうなずく。
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