一話 帝都の敵

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「ま、間違いないのか?」  こくり。 「い……い、いつだ?  もてあそばれたって……いや、馬鹿な、そんな馬鹿な……」 「つい、先日。  私は、彼に、捨てられた」 「馬鹿をいうなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」  奇声が。  館じゅうにこだました。  男の顔は大量の汗にまみれていた。  はぁはぁと、荒い息をついている。 「馬鹿な……ありえない……ありえるはずがないんだ……」  キッと、にらみつけるように娘を見据え、 「だって、だって……之宣くんは、七年前に亡くなっているじゃあないかああああああああああああああああああああああああああああ!」  そう。  それが事実。  浅野家の長男として生まれた之宣は、七年前に、病死している。  男の娘は、その亡くなったはずの之宣にもてあそばれたと、そう主張しているのだ。  圧倒的なまでの矛盾。  その矛盾は、けれど真実だった。
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