アダム

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 シンギュラリティから数十年。人の身体は脆い生身から機械へと以降しつつあった。目紛るしく変化する日常へと対応する進化の一つとも言え、「失う」ことから逃れる術でもあるだろう。不幸な事故により身体の半分を失ってしまった私は進化した技術に救われた。いま、私の52%は機械でできている。 * 「過去旅行?」 「そう、このあいだ日本史の授業で技術特異点のちょっと前の時代をやってたじゃない? それでちょっと気になってさー。タイムトラベルって色々制限はあるけどそこくらいの時代は、今の光学迷彩とかデジタイズを感知する技術がないから行きやすくはあるんだってさ。私、将来は物流関係の仕事したいからその頃の昏迷した運送業がどうなってるのか見てみたいのよ」  彼女はそう言って腕時計型のパーソナルコンピュータを起動させ、立体映像を中空に映し出した。旅行会社のロゴが流れ、そのあとに仰々しいほどに美しく加工された2018年の日本の映像が流れ出した。  私は彼女に気づかれないように小さくため息を吐いた。これまでも何度かあったいつものパターンだ。こう言い始めると彼女はやり遂げるまできかず、私はそれについていくことになる。それでも、彼女が興味を持つものは私にとっても損となることは全くなく、休日はいつも家に篭もり仮想空間で過ごす私にとってはむしろ良い経験をさせてくれる大切なきっかけでもある。
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