いつものお客様

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 私の名前は倉橋(くらはし)かんな。アルバイトとして二年ほど前からここで働いています。先月から閉店近くの忙しくない時間帯は一人でお店を任されるようになりました。  お客様は(ひじ)をつきながら、かじかんだ両手をほぐしています。私はその手に暖かなお手拭を差し出しました。 「こちらどうぞ。外は寒かったですか?」 「ありがとう。そうだね、風も強かったし。北海道で初雪が降ったって言ってたよ。もう冬だね」  彼はそう言いながらお店の入り口の方を眺めました。 「あ、肩のあたり…」  私はそう言って彼の肩のあたりを指差しました。コートにイチョウの葉が付いていました。 「はい、こちらにどうぞ」  私は両手をそっと差し出し、彼がつまんだ枯葉を受け取りました。  秋も終わりに差し掛かってきました。この時期は肩や背中、時々頭なんかにイチョウの葉を付けた方がご来店されます。  私は冬に向かって少しずつ弱っていくこの季節が好きです。頬を刺す冷たい秋風に乗って店先に届いた黄色い葉を見ると、何ともいえない切ない気持ちが胸にジンと広がります。 「いつものブレンドでよろしいですか?」 「うん、お願い」     
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