いつものお客様

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 彼のお名前をお聞きした瞬間、店内に流していた映画音楽がちょうど終わってしまい、私たちの間に少し沈黙が流れました。少しして、CDが一曲目からまた再生を始めました。レンガで出来た壁に囲まれた店内に、情景を感じさせる音楽が静かに満ちてきました。  私は意を決して、以前から考えていたお願いを口に出してみることにしました。 「あの…突然なのですが…ご迷惑じゃなかったら……私が作ったオリジナルブレンド…飲んで…頂けませんか?」 「かんなさんが作ったやつ?」 「はい…わたしの……です」  拓真さんは(こころよ)く『頂きます』と言ってくれました。私は早速もう一杯コーヒーをご用意しました。とても嬉しかったのですが、正直心配で胸が張り裂けそうでした。香りや味が変だと言われたらどうしようと思ってしまい、ティーカップを置く手が震えてしまいました。  彼はカップを口に近づけ、少し香りを楽しんだ後にスッと一口飲んでくれました。私は丸い銀色のトレーを胸にぎゅっと抱えながら、その様子をじっと見つめていました。 「ど…どうでしょうか?」 「すごく美味しいよ」  その答えに思わず安堵(あんど)のため息が出てしまいました。 「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。いいコーヒーだと思うよ。ちなみにこれ、どんな豆を使ってるの?」 「それは…ごめんなさい……秘密です。あ、あと、お代は結構です」     
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