第一夜 奴

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 と、張り切ったまでは良かったが。  仕事は遅々として進まなかった。  昼間の代理店での打ち合わせで方向性が変わった。  最初と話が違うじゃねーかと言いたいところだったが、しがないフリーランスの身じゃあ、平身低頭かしこまってござりまするとへいこらするしかないのが悲しいところさね。  修正どころかまるきり描き直さなきゃならねえものも何点かある。  たぶん、代理店の確認ミスだ。  でなきゃ締切前日にこんな覆り方は、ふつうしねえ。  もちろん土壇場で何もかもがひっくり返るてえ事はないワケじゃねえ。  我儘は金を出す者の真骨頂、みたいに考えてるクライアントだって多い。  代理店にムリを通すのが趣味なんじゃないか?なんて思えてくるサドなクライアントも知ってるよ。  だけど、今回は最初にオレがわざわざクギをさしといてやった部分が心配したとおりの形で覆った。  だから最初に確認しといた方がいいですよと言ったでしょと、儚い抵抗はしちゃあみたが、聞く耳持ちやしねえ。  確認はしたけど今日になって急にクライアントから連絡が来たんだよ、悪いねえ、なんて代理店の担当のあんちゃんがシレッとした顔で言ってたが、ありゃあウソだな。  最初からちょっと不安だったんだよ。  今回の担当、自分のヌケてるところをみんなアウトソーシングに押し付けるって、フリーランスの連中にゃあ有名だってウワサを聞いていたからな。  代理店と言っても万別だあな。デキるデキないは個人の資質にかかってる。  デキる代理店があるんじゃねえ。デキる社員が代理店を支えてンだ。  デキないヤツはとことんデキねえ。  こんなの飼っててなンか得があんの?って不思議に思えるほどにデキないヤツも多いよ。  そしてどういうワケかそういうヤツに限って、自分がデキると勘違いしてるんだな、これが。
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