第一夜 奴

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第一夜 奴

 こんな日は、ヤッコだな。  仕事部屋を兼ねたアパートに戻って窓を開け放ち、ぬくい風にさらされながらふと思った。  もう十一月だってえのに、暑い。  今日は昼間、天気予報も見ずに上っ張りを羽織って飛び出したら、暑くてたまらねえじゃねえか。  暑い、と思った時はもうアパートより駅の方が近くて、渋々上っ張りを煩わしい手荷物にした。  一人暮らしの気軽さも手伝って部屋は雑多に散らかっている。まあ、  気軽さと言うよりは単なる無精なだけ、だけどな。  その合間を縫ってデスクにたどり着くと、オレはパソコンに火を入れた。  仕事が済んだら奴で一杯引っ掛けるか。  山積みの仕事がまだほとんどと言っていいほどに片付いていないうちから、オレは晩酌を夢想した。  最初は、泡だ。  何はともあれ取り敢えずは泡。  やっこをちびちびと箸でちぎり、つるんと喉を滑ってく豆腐を追っかけて泡をきゅーっとやる。  で、次はポン酒だな。  こんな日あ、当然冷酒だ。  いい酒なら常温もオツだが、生憎あんまりいい酒は買わねえ。  ワンカップ何とか程度の庶民の懐に優しい類いでも、キンキンに冷やせば甘露ってえもンよ。  そいつを小皿に乗せた一合かっきりの小振りのグラスに、もっとこぼしてえーっ的に注ぐ。  表面張力の限界を超えた酒がグラスをあふれて小皿にこぼれる、てえ寸法だ。  かーっ。想像しただけでたまんねえ。  さて、そいじゃあ、夜を楽しみに、とっとと仕事を片付けるか。
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