序章 わたしはここよ

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 福岡市内にある『とある街』の片隅にある(つぶ)れかかった本屋でアルバイトをしながら細々と暮らしている、とりわけ美人でもなく、スタイルが良いという訳でもない何処にでもいる女がわたし。一緒に住んでいるのは3年前の冬に拾ってきた雌猫(めすねこ)一匹だけ。 名前は『櫻井くん』。芸能人でただ一人好きな嵐の櫻井くんの名前。それなら『翔くん』とかにすればいいものをわたしの()えない性格がそうさせる。しかも、『雌』なのに『くん』はない。と自分でも思うのだがこの性格だけはどうしようもない。 ーー笹井雪子(ささいゆきこ)、26歳。未だ独身。 というより男性経験なしの女。本を読むことが唯一の趣味といった地味な趣味。オシャレにも興味なんてないから、いつもジーンズに白のシャツかセーターといった見栄えのしない格好ばかり。 化粧なんて生まれてからした回数なんて数えるくらい。半年前に無理やり親に見合いさせられた時以来していない。 こんなだから男性に見向きもされない。ナンパされるなんてこと、地球が逆回転し、太陽が西から昇ろうと北極と南極の極移動が起ころうがないような気がする。
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