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こちら側には座り心地の良さそうなソファが並び、ゆったりと格子の中を見られる造りになっている。
「張見世をイメージして造ったそうです」
翁面がしゃがれた声でそう言ったが、少年には張見世という言葉自体がよくわからなかった。
フロアを抜け、奥の扉を開けるとそこは、応接間になっていた。
高級そうな革張りのソファには、ひとりの男の姿がある。
男は和服姿で、薄い唇に咥えた煙管の先からは、紫煙が立ち上っていた。座っていてさえ、均整のとれた肢体だということが見て取れる。
「来たか」
と、男は切れ長の目を上げて、少年を見た。大人の男の年齢を少年が推し量るのは難しい。和装の男は、20代のようにも50代のようにも見えた。頬の辺りの肌には張りがあったが、目が、この世の深淵を覗くような、老成した落ち着きがあるのだった。
その、男の双眸が、少年を見て僅かに細まる。
少年が痩せこけて、垢じみていたからだ。
電気もガスも止まった部屋で、水だけを飲んで生活していたからだった。
「汚い子どもだ」
それが、楼主から下された、少年への最初の評価であった。
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