第2話

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 だから男娼は、よほどのことがない限りそれを口にはしないし、男娼が『セーフワード』を発したときはかなり危険な状態だと判断ができるため、男衆は即座に飛び込んでいく、というシステムなのだ。    男娼が『セーフワード』を言った、ということは、その部屋付きの男衆から楼主に報告がもたらされるため、今日、アザミが怪士を揶揄って遊んだことも、この男から直に楼主の耳に届くだろう。  こんな振る舞いをしてばかりだから、アザミの借金は増えてゆくのだが、売れっ()のアザミは落ちこぼれ男娼と違ってお茶を引くということがないので、罰金がいくらだとかは特に気にしたことがないのだった。       男衆のもうひとつの役割が、男娼の教育である。  その教育係は、翁面を着けている。  しずい邸でもゆうずい邸でも、まず初めにこの翁によるボディチェックが行われる。  体の隅々まで触られ、性器を弄られるのだ。  翁面のこのチェックに合格すれば、次は性技を仕込まれる。  アザミは昔、快楽を知らぬ体を翁にまさぐられ、毎日のように泣いていた。……いまでは、笑い話だけれど。  そして体が出来上がり、翁と楼主がともに良しと判断した段で、晴れて淫花廓の高級男娼として、見世に立つことがゆるされるのだ。 「いまさらこの僕が、翁の手を必要とするわけないだろう」  昔に散々弄らせてやったのに、とは口にせず、アザミは皮肉気な笑みを唇に乗せた。     
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