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少年はそれらを特に気に留めることはしなかった。
ある日、蜂巣の中の掃除をしていたときのことだった。
箪笥と壁の隙間に手を入れ、埃を雑巾で拭こうとしたそのとき。
ガリっ、と手の甲になにかが当たって驚いて引っ込めた。
「っ痛……」
胸に引き寄せた右手を見てみると、甲の部分が傷つき、出血していた。
少年は壁に頬を寄せ、自分が手を入れた隙間を覗いてみる。
暗くてよく見えない。
箪笥を思い切り引いてみると、ほんの僅かにそれは動き、先ほどよりも箪笥の裏が見えるようになった。
改めてそこを覗くと、箪笥の内側から裏にかけて、錆びた釘が飛び出ているのがわかった。
あれに手が引っ掛かったのだ。
あんなところから釘が飛び出しているのは明らかに不自然で、今日、少年が掃除当番だと知っていた誰かの嫌がらせであることが知れた。
少年は血の滲む傷をぺろりと舐めて、掃除の続きに戻った。
右手がじんじんと痛んだが、怪我を訴えたところで借金が増えるだけだ。
黙って耐えるしかなかった。
清掃後に、男衆に箪笥の後ろに釘が出ていることを伝えた。
報告を終えたら、その日の業務は終了となった。
翌日、右手の甲が腫れていた。
傷口の周辺が赤くぷっくらと膨らんでいる。
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