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両邸にはそれぞれ、『淫花廓』で働く人間が暮らしている。すなわち、客に身を売っている人間、というわけである。
『淫花廓』最大の特徴は、それらすべてが男性である、ということだ。
『しずい邸』は、その名の通り雌蕊……雌の役割をする男娼が。
『ゆうずい邸』には、雄蕊……雄の役割をする男娼が。
各々、事情を抱えながらもここで働いているのだった。
その両邸から放射線状に石畳の渡り廊下が伸び、庭園や人工池などを挟みながら六角形の小さな建物が点在している。
蜂蜜色の屋根をしたそれは、蜂巣と呼ばれ、客が男娼とひと晩を共にするための場所であった。
アザミはいま、その蜂巣から客の背中を見送った。
日付が変わる直前の時間である。
当然のことながら、外は暗い。石畳の回廊にはオレンジの灯が燈され、支柱や欄干が赤く浮かび上がって幻想的な雰囲気であった。
乱れた長い髪を、気だるげな仕草で首の横でひとつに結わえて。
アザミは緋色の襦袢を裸体に羽織った。
普通の襦袢とは違い、その丈は太ももの半ばあたりまでと短い。今日の客のリクエストだ。
なにかのコスプレなのか、短い着物に黒いストッキング、それに赤いハイヒールを合わせてほしいと言われ、アザミは客のためにこんな、頭のおかしい恰好をしたのだった。
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