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言いながら、アザミは武骨な男の指を、己の華奢な手で掴み、その指の股を愛撫するようにやわらかくこすった。
「掻き出して、きれいにしてくれないか? ……おまえの指で」
ぴくり、と怪士の指が動いた。
「できません」
一本調子の声音で、男がそう答えた。
アザミはふふっと肩を揺らす。彼ならば、そう答えると思っていた。
楼主の教育は完璧だ。
男衆は、男衆として存在し、それ以上でもそれ以下でもない。
名前もなく、顔を隠し、この淫花廓で、男娼のため、というよりはむしろ、淫花廓のために仕える男たち。
そんな男衆にとって、アザミたち男娼は商品だ。
彼らは商品をより高く売るための手間を、惜しまない。それゆえに、男娼のちょっとした我儘は聞き届けられるし、アザミを抱いて部屋へ運ぶことすらもその仕事に含まれるのだった。
淫花廓に居る限り、男衆は血の通った人間であってはならない。
個を消し、男衆という括りの中に埋没し、商品を良い状態に保つことだけにこころを砕く。そこに喜怒哀楽の感情は不要だ。
男衆が特定の男娼に関心を持ったり……あまつさえ、懇ろになったりはご法度で。
男娼と体を繋げることは、彼らにとって最大の禁忌であった。
その禁忌を。
アザミはすでに、破っている。
この男の放つ牡の味を。
アザミはもう、知っていた……。
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