1493人が本棚に入れています
本棚に追加
プロローグ
蜂巣、という建物がある。
六角形の、さして広くもない空間である。
床は、畳敷かフローリングかが客の好みで選べるシステムだ。それぞれに応じて、褥が布団かベッドになる。
今日はフローリングだ。磨き上げられた床を、アザミはハイヒールの踵で踏んだ。
女物のパンプスの色は赤だ。
アザミには赤がよく似合うと言われる。
白くすんなりと伸びた足の間には、今日の客がうずくまり、熱心にアザミの陰茎をしゃぶっていた。
犬のようなその舌の動きがくすぐったくて、アザミはふふっと吐息する。
蜂巣の壁の一辺には、丸窓があり、そこから庭の池がよく見えた。
十字の格子の向こう。青空を羽ばたく鳥がいる。俯瞰の眺望からは、敷地内に点在する蜂蜜色の屋根をした蜂巣の連なりは、さながら本物の蜂の巣のように見えるのだろうか?
ばさり、というその羽音が聞こえてきそうで、アザミは窓から視線を引き剥がした。
蜂巣の中には、アンティークなランプとベッド、それから備え付けの小作りな箪笥しかない。
いつ来ても殺風景な部屋だ。
まぁ、蜂巣の用途が、『やる』為だけの部屋なのだから、それも已む無し、というところか。
最初のコメントを投稿しよう!